【番外編】十二国記『月の影 影の海(上巻)』読了【異世界の話なのにふと蘇るのは私の現実世界での記憶でした】

Town Bridge River Arch Bridge  - gdmoonkiller / Pixabay 日本語の本
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*今回は英語と無関係の記事です

 突然ですが、十二国記をやっと読み始めました。 本編としては1冊目の『月の影 影の海(上巻)』を読み終わったので、せっかくなのでブログにしてみようと思います。前日譚にあたる『魔性の子』は年末に読んでいたので、実質シリーズとしては2冊目ですね。

 ファンがたくさんいることや久しぶりの新刊がニュースになっていたことなどは知っていたのですが、今まではなかなか読む機会がありませんでした。しかしまとまった時間が取れたのをきっかけに手を伸ばしてみたらあっという間に夢中になってしまいました。

 本書は平凡な生活を送っていた女子高生の陽子がある日突然、わけが分からないままに異世界に連れていかれてしまうというお話です。この異世界というのが驚くほどハードなのです。主人公の陽子は右も左も分からない異世界で、妖魔には何度も命を狙われたうえに出会った人間からは裏切られてしまいます。なかなかに救いがないのですが、ページをめくる手は止まらなくなるでしょう。

 

 

 さて、ここでブログのタイトルに戻ります。【異世界の話なのにふと蘇るのは私の現実世界での記憶でした】と書いてみました。本書は異世界が舞台なのですが、読んでいるとなぜか現実世界での自分の記憶がふと目の前に浮かんでくるのです。十二国記の宣伝では『これはあなたの物語』というキャッチフレーズが使われています。それも納得できます。本書を現実世界の記憶とリンクさせる人は私だけではないということなのでしょう。

 以下は私が本書を読んでいて思い出した現実世界の記憶です。自分の記憶の整理のために書いているようなものなので、本の内容とはほとんど関係ありません。

 主人公の陽子は高校生だったけれど、私が上巻を読んでいて思い出したのは中学時代の出来事だった。 当時のクラスの人間関係はあまり心地の良いものとは言えなかった。しかし中学生などという微妙な年齢ならそれは決して珍しいことではなかったのかもしれない

 当時のクラスでは気の強い女子たちが数人でグループを作っていて、特定の女子を嫌っていた。客観的に見れば深刻な虐めがあったわけではなかった。それでもクラスで中心的な存在だった彼女たちが嫌っているというのは明白な事実だった。その他のクラスメイトはといえば、なんとなく嫌いと思う者、どうでもいいと思う傍観者が大半だった。今思い返してみると、彼女(=特定の女子)に協力的だったのは私ともう1人の女子だけだった。もう1人の女子に関しては、中心的なグループの女子から「〇〇ちゃんは優しいね。あの子にそこまでしてあげることないのに」と直接言われていた。それでも目の敵にされなかったのは、彼女が誰にでも優しくするキャラだったからなのだろうと思う。他の人が同じことをしていればもう少し目をつけられていたのかもしれない。

 協力的なうちの1人だった私の在り方は少し異質だったかもしれない。正直に書いてしまうと、存在感を消して、クラスメイトとは必要最低限の関係を築いて卒業を迎えられればそれで充分だと思っていた。 好きでもない人たちに囲まれたあの閉鎖的な空間で、それ以上のウェットな何かを求めるつもりなんて全くなかった。 家では卒業日数をカウントダウンするカレンダーを付けていたけれど、クラスの中ではそんな様子は一切見せないように心がけていた。その試みはある意味で成功したと言える。 つまり私は自分が認識しているよりも演技が上手かったということだ。

 卒業の日、クラスを私物化していた女子たちは別れを惜しんで涙を浮かべて抱き合っていた。この日を待ちわびていた私にとっては別れを祝いたい気持ちだった。しかし、演技は幕が閉じるまで続けるべきだ。そうでなければここまでの努力が水の泡になる。女子グループの1人が私に近づいてきたとき、目頭が自然と熱くなった。それはやっとカウントダウンがゼロになって新しいスタートを切れるという歓喜の涙だった。彼女と目が合った瞬間、右目から涙が一筋流れた。それを隠すように下を向いてセーターの袖を目元に当てた。幸いにも彼女は涙の意味を誤解してくれた。別れを惜しまないような異分子がいるなどと考えもしなかっただけかもしれないけれど。私の肩には優しく彼女の腕が回されたのだった。すでに涙は流れていたけれど、私は泣けばいいのか笑えばいいのか分からなくなってしまった。人の溢れる教室で、私の感情だけがぽつんと迷子になっていた。

 数年後、中学時代のあの渦中の女子と直接話す機会が訪れた。高校はそれまでが嘘のように楽しかったし、大学生にもなれば他に夢中になることはたくさんあった。だから当時の私の中では、重い空気の流れていた中学の記憶はどこかに埃を被ってしまわれていたのだった。あれから長い時間を経た彼女は私にこう言った。「あの時の人たちは大嫌いだからみんな失敗すればいいと思ってる。でもあなたは優しくしてくれたからそうは思わない。良い人生を送ってほしい」と。

 私は存在感を消して波風を立てずに卒業までやり過ごそうとしていたし、実際にその信念に基づいて卒業の日を迎えた。だからそんな風にクラスメイトに覚えられているのは少し不思議な感じがした。

 私は主人公の陽子のように委員長ではなかったけれど、成績は良かったし先生たちから見ればそれなりに優等生だったと思う。実際に担任には面談のたびにあなたは心配ないねといったようなことを言われていた。今振り返れば、あの頃の人格なんてもうすっかり消えてしまったようなようなものだ。それでも『月の影 影の海(上巻)』を読んでいると、ふとあの頃の私が今でも心の奥底に眠っているのだという事実がストンと落ちてきた。

 これを書いている今も、買ったばかりの下巻を読みたい衝動に駆られている。陽子の物語、そして私の物語に潜っていきたいと思っている。

 

【番外編】十二国記『月の影 影の海(上巻)』読了【異世界の話なのにふと蘇るのは私の現実世界での記憶でした】おわり

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